コラム:設計士に家を設計してもらうこと

 設計事務所は、設計を専門に仕事をしているところです。実際に造ることはしません、できません。
 設計士、建築士、建築家、設計事務所、そこに家づくりを依頼した場合、それだけでは実際の家を手に入れることはできません。別に工務店に依頼しないといけません。設計士がつくるのは設計図までです。
 工務店、建設会社、ハウスメーカー、フランチャイズ、大工さん、そちらに家づくりを依頼すれば、実際の家を手に入れることができます。工務店には設計士が所属している場合が多いので、設計もしてくれます。設計施工です。
 それでも、わざわざ設計事務所に依頼するなんて、家づくりの遠回りをしているように見えなくもありません。
 なぜ設計事務所に家づくりを依頼するんでしょう?
 それは、設計を専門にしているからこそできることがあると、そう思われているからでしょう。設計が大事だと思われているからでしょう。

 さて、設計事務所に家づくりを依頼して、設計図を作ってもらったとします。次に、実際にその設計図を基に家を造ってくれる工務店に注文しないといけません。
 ここで心配になるのが、「設計図どおりに実際の家ができるのか」「設計図どおりに造ってくれるのか」ということではないでしょうか?設計図を作っても、そのとおりにならなかったら、それまでの苦労が水の泡になってしまいます。設計図は絵に描いた餅、そんなことのために大切な予算を投じるなんて、なんということでしょう。
 設計図どおりに工務店がつくってくれるかどうか、そのチェック機能はつぎのとおりです。

 

設計図どおりに造ってもらうためのチェック機能
1.建築確認申請
 まず、設計図を作る作業の中には、建築確認申請を行うことが含まれていることが一般的ですので、建築確認済証の内容通りに造られない場合は、計画変更の手続きが必要になります。ですので、たいがいは設計図どおりに造ってくれそうです。しかし、建築地によっては建築確認申請が不要な場所もあるので、なんともいえません。また、建築確認申請では法規制に関わる内容は審査されますが、それ以外の部分は審査されませんので、建物の細かな部分や色などが図面どおりに造られない可能性が無くはありません。

2.監理
 建築工事中には、監理という設計者が行う業務が必要になります。この監理をおこなうことで、設計図どおりに造ってくれているかを、設計者がチェックすることになります。
 設計図を作ってもらった設計士に、引き続き監理も行ってもらう場合は、まず、図面通りに工務店が造っているかをチェックするのは間違いないでしょう。
 しかし、設計図を作ってもらった設計士には監理は任せず設計だけで終わり、監理は別の設計士に任せる、もしくは工務店自体に監理も任せることもできます。(ちなみに、請負者は工事管理を行いますが、管理と監理は目的も内容も違いますので注意が必要です。)
 監理を別の設計士に任せる場合、図面をきちんと読み取れるかという問題や、図面に描かれていないことをどう処理してくれるかという問題が出てきます。
 監理を工務店に任せる場合は、工務店が図面どおりに造ってくれないということを心配しているのですから、あまり意味がないですね。

 この監理は、誰に任せるかという問題ともう一つ、権限の問題があります。
 設計士は建築主(施主)と監理委託契約を結びます。工務店と建築主は工事請負契約を結びます。設計士と工務店の間には、契約上の関係はありません。もし、監理中に問題点が見つかった場合、設計士は建築主に報告する義務がありますが、工務店に対して強制力はありません。
 工事中に図面通りに造られていない状況が生じた場合は、設計士はまずは工務店と協議を行います。それがうまくいかなかった場合は、設計士は建築主に報告し、建築主から工務店に指示していただきます。こういう事態が頻繁に起きる場合、建築主の負担は大きくなります。ストレスですね。
 工務店との契約上の関係が無い設計士は、建築主の後ろで文句だけ言っているようで、なんとも頼りなく感じてしまいますよね;

3.工事請負契約
 設計図を基にして、その通りに家を造ってもらうように、建築主は工務店と工事請負契約を結びます。設計図どおりに造ってくれなかった場合は、契約違反になります。ですので、建築主は工務店に対して、強い権限を有しています。
 工務店も、きちんと家を造ることを契約していますから、手を抜いたり、責任が持てない家を造るわけにはいきません。設計図に問題があった場合、設計図のとおりに造ると問題になることが予測される場合は、責任が持てるように変更する必要があります。
 変更が必要な場合は、建築主と監理者の三者で協議することになります。三者が納得したうえでの変更なら、設計図どおりではなくなっても問題は無いでしょう。三者が納得できないで変更された場合、特に建築主が納得していない場合が問題になります。
 完成引き渡し後も、工務店はアフターフォローをしてくれます。一定期間の瑕疵保証が法律では義務付けられています。引き渡し後も工務店と建築主の関係は続いていきますので、関係を良好に保ちたいという思いもあります。

 

 設計図どおりに造ってもらうためのチェック機能について3つ上げましたが、どれも決定的ではありません。
 すばらしい家がつくられるかは、設計士や設計図も大切ですが、一番は工務店次第です。

 設計図には表現しきれない細かなことや、感覚的なこともたくさんあります。思っていることを言葉に表現するのに限界があるように、設計図に示せることにも限界があります。この限界を超える方法は、コミュニケーションや信頼関係しかありません。
 設計士は士(さむらい)業というだけあって、兵(つわもの)もいれば曲者(くせもの)もいます。強い信念、志を持っていないと、なかなか勤まるものではありません。それだけに、十人十色で設計図も設計手法も様々です。
 そんな設計士がつくった設計図を読み取って、家を造る工務店の存在は、とても大きいものがあります。
 設計図どおりにつくれば、どんな工務店でも同じような感じに造ることができるかもしれません。しかし、コミュニケーションによらないといけない部分までは、設計士と信頼関係がある工務店でなければ難しいでしょう。設計士と信頼関係がある工務店なら、設計図どおりに造ってくれないのではないかという心配はいらないでしょう。
 設計士に家を設計してもらう上では、設計士と信頼関係のある工務店に注文するのがいいと思います。または、建築主が前面に出てくるような家づくりが必要になるでしょう。もしくは、熟練したすばらしい工務店に注文するのが安心だと思います。